妊婦さんやお腹の赤ちゃんの健康状態を確認するために必要な検査や、妊娠・出産時に受けられるさまざまな支援、妊娠中の生活のポイントなどについて知ることができます。
妊婦健診の検査
妊婦健診は、妊婦さんや赤ちゃんの健康状態を定期的に確認するために行われるものです。健康に過ごし、安心して出産に臨めるよう、医師や助産師などの専門家と一緒に準備していきましょう。
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4分でわかる 「妊婦健診の検査編」
どこで、いつ受ける?
妊婦健診は、病院、診療所、助産所で受けられます。助産所で出産する予定の方は、助産師と相談の上、病院または診療所でも妊婦健診を受けておきましょう。
妊婦健診のタイミング・頻度としては、妊娠初期から妊娠23週までは4週間に1回、妊娠24週から妊娠35週までは2週間に1回、妊娠36週から出産までは週1回の受診が推奨されています。
検査の内容は?
妊娠週数に応じた問診・診察に加えて、妊婦さんの体調や赤ちゃんの成長を確認するために、体重や血圧の測定などの基本的な検査が行われます。
また、血液検査、超音波検査などの医学的検査も行われます。医学的検査の内容は、医療機関の方針や、妊婦さんと赤ちゃんの健康状態に基づく担当医の判断によって異なります。
厚生労働省では、14回分の妊婦健診として、下記のようなスケジュールや検査内容を例示しています。
図:標準的な妊婦健診の例
医学的検査のポイント
超音波検査
おなかの上や、膣内から超音波をあてることで、子宮の中の様子を画像で見ることができます。妊娠初期には、赤ちゃんの大きさから妊娠週数を推定することができます。その後の時期には、赤ちゃんの発育状態や、胎盤の位置、羊水量などがわかります。
血液検査
血液型 | ABO血液型とRh血液型、不規則抗体の有無がわかります。輸血が必要になるときや、まれに起こる赤ちゃんとの血液型不適合の場合に備えることができます。 |
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血算 | 貧血の有無や、血小板数などがわかります。貧血は出産時の出血に備えるためにも改善しておく必要があります。 |
血糖 | 高血糖状態が続くと妊婦さんと赤ちゃんの両方に影響が生じます。血糖値によっては、生活改善や治療が必要になります。 |
感染症 | 赤ちゃんに感染して影響が及ぶことを防ぐため、妊娠初期には、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、梅毒、風疹ウイルスの感染有無を調べます。妊娠30週までには、ヒトT細胞白血病ウイルス-1型(HTLV-1)の感染有無を調べます |
赤ちゃんに感染しても多くは無症状ですが、まれに乳児期に重い肝炎を起こすことがあります。将来、肝炎、肝硬変、肝がんになることもあります。
赤ちゃんに感染しても多くは無症状ですが、将来、肝炎、肝硬変、肝がんになることもあります。
赤ちゃんに感染して、進行するとエイズ(後天性免疫不全症候群)を発症します。
赤ちゃんの神経や骨などに 異常をきたす先天梅毒を起こすことがあります。
お母さんが妊娠中に初めて風疹ウイルスに感染した場合、赤ちゃんに胎内感染して、聴力障害、視力障害、先天性心疾患などの症状(先天性風疹症候群)を起こすことがあります。
赤ちゃんに感染しても多くは無症状です。一部の人が、 ATL(白血病の一種、中高年以降)やHAM(神経疾患)を発症します。
その他感染症の検査
出産時に産道から赤ちゃんに感染することがあるため、性器クラミジア、B群溶血性レンサ球菌(GBS)も標準的な妊婦健診の検査項目に含まれています。性器クラミジアは、子宮の入り口の細胞を、GBSは、腟の入り口付近と肛門の周囲の細胞を採って調べます。
また、標準的な妊婦健診の検査項目ではありませんが、トキソプラズマ症やサイトメガロウイルス感染症、麻疹(はしか)、水痘(水ぼうそう)、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)も妊娠中に注意したい感染症です。すべての妊婦さんが一律に受ける必要はない検査のため、公費負担の対象になっていませんが、医師より説明を受け、検査を受けるかどうかご判断ください。
赤ちゃんに肺炎、髄膜炎、敗血症などの重症感染症を起こすことがあります。
赤ちゃんに結膜炎や肺炎を起こすことがあります。
子宮頸がん検診
妊娠初期に、子宮頚部の細胞を採って調べます。もしもがんが見つかったときには、治療をいつ始めるか検討することになります。がんの進行状態により、経過をみながら出産を迎えられる場合もありますが、妊娠の継続が難しい場合もあります。
出産後には、お母さんの健康状態と赤ちゃんの発育状態を確認するため、産後2週間・産後1ヶ月の産後健診を受けましょう。医療機関により、産後1ヶ月健診のみを実施している場合があります。
無事に出産を迎え、育児をしていくには、からだだけでなく心の健康も重要です。多くの医療機関では、妊娠中や出産後にメンタルヘルスチェックが受けられます。出産後は今までの生活とは違い、赤ちゃん中心の生活が待っています。孤独感や不安を感じやすくなる場合もありますので、心配ごとがあれば、担当医や助産師などの医療スタッフに気軽に相談しましょう。
妊産婦が受けられる支援
妊娠中や、産前産後には、自治体や職場などからさまざまな支援が受けられます。支援制度により、経済的な負担を減らすこともできます。それぞれ申請や手続きに関する詳細を確認しておくようにしましょう。
自治体のサポート
妊婦さんは、お住まいの地域の自治体から、様々な支援を受けられます。
母子健康手帳
妊婦さんと赤ちゃんの健康状態を記録していく大切な手帳です。妊婦健診や乳幼児健診などの各種健診、訪問指導・保健指導などの母子保健サービスを受けた際の内容や、ワクチンの接種状況について、情報を記録できます。記入された情報は、かかりつけ医はもちろん、それ以外の医師による診療や保健師による保健指導の際にも役立てられます。お子さんが大人になってから必要になる場合もありますので、きちんと記録して、大切に保管しましょう。
母子健康手帳は、お住まいの地域の保健センター・市区役所・町村役場などに「妊娠届出書」を提出することで受け取れます。
妊婦健診の受診券・補助券
妊婦健診の公費助成が受けられます。妊婦健診を受診する際には、母子健康手帳と一緒にもらう妊婦健診のための受診票を産科医療機関に渡してください。妊娠初期など、受診票を利用できるタイミングが限られている場合もあるため、できるだけ早い時期に母子健康手帳を受け取り、サポート情報を把握しておきましょう。お住まいの市区町村によって受けられる補助の対象となる検査項目や補助される金額は多少異なります。
職場のサポート
妊産婦さんの働き方への配慮は「男女雇用機会均等法」「労働基準法」で保障されています。
会社に規定がない場合やパートタイム労働者の方も会社に申し出ることができます。
また、出産後、仕事と育児を両立し、継続して仕事ができるよう「育児・介護休業法」の両立支援制度があります。
母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)
妊娠中は、ご自身の体調を考えて働き方を見直すことが重要です。体調や仕事の内容で不安を感じることがあれば、かかりつけ医などに相談しましょう。働く妊婦さんが医師などから通勤緩和や休憩などの指導を受けた場合、その指導内容を事業主に的確に伝えるために、母健連絡カードを利用できます。妊婦さんから母健連絡カードが提出された事業主は、記載内容に応じた適切な措置を講じる必要があります。
例えば、つわりや貧血、血圧の上昇などの症状に対しては、休憩の確保、勤務時間短縮、休業などの選択肢を取ることが考えられます。
なお、母健連絡カードは、出産後(妊娠週数にかかわらず、流産・死産[人工妊娠中絶を含む]を含みます。)1年以内の産婦さんも利用いただけます。
図:母健連絡カードの使用方法(イメージ)
通院休暇
仕事をしている妊婦さんが妊婦健診などを受ける場合、勤務時間中に通院休暇を取得することができます。ただし、通院休暇が有給休暇かどうかについては、事業所によって対応が異なります。
産前産後休業
産前休業は、分娩予定日の6週間前(双子以上の場合は14週間前)から請求すれば取得できます。出産当日は産前休業に含まれます。分娩予定日とは妊娠40週0日にあたる日付であり、予定帝王切開などで出産を予定している日付とは異なります。なお、出産当日は産前休業に含まれます。
産後休業は、出産日の翌日から8週間とされています。ただし、産後6週間を経過後に本人が請求した場合、医師が支障がないと認めた業務には就業できます。産後休業は、妊娠4か月(妊娠12週)以上での流産・死産(人工妊娠中絶)を経験された方についても対象となります。
育児休業
1歳に満たない子を養育する労働者は、男女問わず希望する期間子を養育するために休業することができます。育児休業は1人の子に対して原則2回に分割して取得できます。また、産後パパ育休と育児休業を合わせれば4回休業できます。子が1歳以降、保育所に入れないなどの事情がある場合には、子が1歳6か月に達するまでの間(子が1歳6か月以降、保育所に入れないなどの事情がある場合には、子が2歳に達するまでの間)育児休業を延長することができます。
そのほか、3歳に満たない子を養育する労働者は、短時間勤務や所定外労働の制限を請求できます。子が小学校入学前の場合、看護や予防接種、健康診断のための子の看護休暇の取得、時間外労働の制限、深夜業の制限を請求できます。
産後パパ育休制度(出生時育児休業制度)
男女とも仕事と育児を両立できるように、産後パパ育休制度(出生時育児休業制度)が創設されました。育児休業とは別に、原則として出生後8週間以内に4週間まで、2回に分割して休業することができます。
図:育休取得イメージ
経済的サポート
出産・子育て応援交付金
妊娠届出時や出生後の面談による相談支援と、それぞれ5万円相当の出産・子育て応援ギフトを支給する「出産・子育て応援交付金事業」が、各市町村において順次始まっています。出産・子育て応援ギフトは、各世帯にクーポンを支給し、そのクーポンと引き換えに指定の育児用品や子育て支援サービスを提供するものです。地域によっては、現金支給としている場合もあります。2022年4月以降に出産した世帯が対象となります。詳しくはお住まいの地域の市区役所・町村役場にご確認ください。
出産育児一時金
公的医療保険に加入している場合、出産時に1児につき50万円(産科医療補償制度の対象分娩とならない場合は48.8万円)が支給されます。産科医療機関によっては、医療機関が妊婦さんに代わって支給申請と受取りを行う直接支払制度が利用できます。直接支払制度を活用することで、あらかじめまとまった出産費用を用意することなく出産でき、経済面・手続面の負担を軽減することができます。手続きに関しては、ご自身が加入している健康保険組合などの保険者にご確認ください。
高額療養費制度
切迫流産・切迫早産、妊娠高血圧症候群などの病気により入院した場合や、帝王切開で分娩した場合の医療費が対象になる場合があります。医療機関や薬局に支払う金額が月ごとの限度額を超えた場合、超えた部分が公的医療保険から支給されます。手続きに関しては、ご自身が加入している健康保険組合などの保険者にご確認ください。
産科医療補償制度
産科医療補償制度に加入している分娩機関で出産し、万が一、赤ちゃんが分娩に関連して重度脳性まひとなり、在胎週数、障害の程度などの基準を満たした場合には、看護、介護のための補償金が支払われるとともに、脳性まひ発症の原因分析が行われます。この制度に加入している分娩機関の一覧は、(公財)日本医療機能評価機構のホームページに掲載されています。 なお、補償申請期限はお子様の満5歳の誕生日までです。
助産制度
助産制度とは、経済的な理由で病院や助産所に入院して出産することができない妊婦さんが指定された施設に入所し出産できる制度です。助産制度の手続きに関しては、お住まいの地域の市区役所・町村役場にご相談ください。
社会保険料
産前産後休業中と育児休業中は、健康保険・厚生年金保険の保険料は、事業所から健康保険組合や年金事務所に申出をすることによって、休業を開始した月から終了した月(終了日の翌日の属する月)の前月までの健康保険・厚生年金保険の保険料は、本人負担分、事業主負担分ともに免除されます。社会保険料の免除を受けても、健康保険を活用した受診は通常どおり可能です。厚生年金保険の支払いを免除された期間分についても、休業前の給与水準に応じた厚生年金保険料を納めた期間として扱われます。
また、国民年金第1号被保険者(20歳以上60歳未満の自営業者や農業者、学生、無職の方とその配偶者の方)においても、産前産後期間(出産予定日またはは出産日[出産後に届出をした場合])が属する月の前月から4か月間(多胎妊娠の場合は出産予定日または出産日が属する月の3か月前から6か月間)の保険料を免除し、免除された期間分についても、国民年金保険料を納めた期間として扱われます。詳しくは、年金ダイヤル(0570-05-1165)、年金事務所、加入先の健康保険組合などにご相談ください。
働いている妊産婦が受けられる経済的サポート
産前産後休業の期間中、健康保険から1日につき、原則として賃金の3分の2相当額が支給されます。ただし、休業している間にも会社から給与が支払われ、出産手当金よりも多い額が支給されている場合には、出産手当金は支給されません。詳しくは、加入先の協会けんぽ、健康保険組合などにご相談ください。
被保険者が病気やけがのために働けず給与の支給がない場合に収入を補うための制度です。妊娠は病気ではないため、基本的には傷病手当金の対象にはなりませんが、妊娠中には切迫早産や切迫流産など入院する可能性や、医師に言われて安静にしなくてはならない場合もあります。そのような場合には、傷病手当金の支給対象になります。出産手当金と傷病手当金の給付を同時に受けることはできません。詳しくは、ご加入の協会けんぽ、健康保険組合などにご相談ください。
子の出生日から8週間を経過する日の翌日までの期間内に、4週間(28日)以内の期間を定めて、子を養育するための産後パパ育休(出生時育児休業)を取得した場合など一定の要件を満たした雇用保険被保険者が対象で、原則として休業開始前賃金の67%が支給されます。詳しくは、最寄りのハローワークにご相談ください。
1歳未満の子(保育所に入れないなどの事情があれば最長2歳に達する日まで)を養育するために育児休業を取得した場合など一定の要件を満たした雇用保険被保険者が対象で、原則として休業開始後6か月間は休業開始前賃金の67%、休業開始から6か月経過後は50%が支給されます。詳しくは、最寄りのハローワークにご相談ください。
※いずれも非課税のため所得税の控除はなく、次年度の住民税の算定基礎にもなりません
雇用保険料は、会社から支払われた給与に雇用保険料率を乗じて計算します。産前産後休業中、育児休業中に会社から給与が支払われていなければ、雇用保険料の負担はありません。詳しくは、都道府県労働局へご相談ください。
妊婦のからだの変化
妊娠中のからだの変化やお腹の赤ちゃんの成長など、妊娠生活において気をつけたいポイントを紹介しています。
- 妊娠中のからだの変化
- 妊娠中の食事
- 妊娠前・妊娠中に気をつけたいビタミン・ミネラル
- 妊娠中の体重コントロール
- 妊娠中の運動
- 便秘と痔
- 頻尿と尿もれ
- 歯科健診と口腔ケア
- 妊娠中の肌の変化・ケア
- おっぱいのケア
- 妊娠中と産後のこころの変化
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6分でわかる「妊婦のからだの変化編」
妊娠中のからだの変化
妊娠中にからだがどのように変わっていき、おなかの赤ちゃんがどのように育っていくのか、知っておきたい人も多いのではないでしょうか。妊娠初期から後期までの妊婦さんの様子や赤ちゃんの成長、妊娠生活の中で気をつけたいポイントをカレンダーにまとめました。
図:マタニティカレンダー
妊娠中の食事
おなかの赤ちゃんを育んでいく妊婦さんにとって、食事はとても大切です。
妊娠初期の赤ちゃんはまだ小さく、たくさんのエネルギーを必要としていないため、つわりがある時は、体調に合わせて食べられるものを摂取しましょう。つわりが落ち着いてきたら、食事の内容やタイミングを見直しましょう。
心配ごとがあれば、お住まいの地域の保健師・助産師などによる妊婦さんの健康相談の窓口や、病院によって設けられている助産師外来で相談できます。お母さんの健康と赤ちゃんの成長のために健康的な食生活を送りましょう。
妊娠中の食生活の基本
主食・主菜・副菜を組み合わせた栄養バランスの良い食事を、1日2回以上摂ることをお勧めします。長い妊娠期間の中で、時には、朝食を抜いたり、昼食がパンのみとなったり、間食でお菓子を食べ過ぎたり、夕食の時間が遅かったりすることもあるかもしれません。このような食生活が続くと、妊娠中の体重コントロールに影響を及ぼすこともあるため、早めに食事の内容やリズムを見直しましょう。また、塩分の摂りすぎは妊娠高血圧症候群、糖質の摂りすぎは妊娠糖尿病のリスクを高めてしまうため、食品や食事に含まれる栄養素に留意しましょう。
妊娠中に注意したいもの
- 1
- カフェインの摂りすぎに注意しましょう。カフェインは、コーヒー、紅茶、緑茶、ウーロン茶の他、チョコレートなどにも含まれます。
- 2
- 妊娠中は禁酒・禁煙が原則です。早産や赤ちゃんの発育不全などを引き起こさないために、周囲の人にも協力を求めましょう。
- 3
- 生野菜をよく洗う、生ものを控えるなど、食中毒予防を心がけましょう。
図:妊娠中に避けた方がよい食べ物
妊娠前・妊娠中に気をつけたいビタミン・ミネラル
不足に気をつけたいビタミン・ミネラルは、葉酸や鉄です。
葉酸
葉酸の不足を予防することで、赤ちゃんの神経管障害の発症リスクを下げることができます。妊娠初期は1日あたり葉酸0.4mgの摂取が推奨されます。葉酸は妊娠のごく初期に重要となるので、妊娠の1ヶ月以上前から葉酸を十分に摂取することが大切です。ブロッコリー、枝豆、のりなどが葉酸を多く含みますが、サプリメントを利用して効率よく摂取することをお勧めします。妊娠期間を通じて、葉酸のサプリメントを摂取しても構いません。
鉄
鉄が不足すると、赤血球の中に含まれるヘモグロビンが作りにくくなることで、貧血となります。貧血は動悸、息切れ、めまい、立ちくらみ、頭痛や倦怠感の原因になります。妊娠中は赤ちゃんの成長、胎盤内の鉄貯蔵、循環血液量の増加に伴い、鉄の必要量が増すため、妊娠前よりさらに多くの鉄分を摂取することが大切です。ほうれん草や小松菜などが鉄分を多く含みますが、サプリメントを利用して摂取することもできます。
妊婦健診では妊娠初期、中期、後期に血液検査で貧血の確認をします。貧血の値によっては医療機関から鉄剤が処方されます。
特定のビタミン・ミネラルの摂りすぎに注意
サプリメントなどによる特定のビタミン・ミネラルの過剰摂取には注意が必要です。サプリメントを利用する場合にはその含有成分等をあらかじめ確認し、疑問点があれば医師に確認しましょう。
妊娠中の体重コントロール
妊娠中は、赤ちゃんの成長に加えて、胎盤や羊水、妊婦さんの血液などが増える分、体重は増加していきます。
適切な体重コントロールは、赤ちゃんの健康にとっても大事な点です。体重が増えすぎると、産道周辺の脂肪の影響で出産時に赤ちゃんがスムーズに降りてこられないこともあります。逆に、体重増加が不足すると、早産や低出生体重児のリスクが高まります。
まずは妊婦さん自身の体格(BMI)にあわせた体重増加の目安をチェックしましょう。そして、妊娠中は定期的に、体重を測定・記録し、ゆるやかな体重増加となるように、食生活や運動量を調整してコントロールしていきましょう。体重の増え方には個人差も大きいため神経質になりすぎないことも大切です。
図:BMIと体重増加量の目安
妊娠中の運動
妊婦さん自身の体調や生活、季節、環境に応じて、無理のない範囲でからだを動かすようにしましょう。
つわりが落ち着いた時期から、体調の良い時に1回につき30分~1時間程度の軽い運動をお勧めします。例えば、ゆったりとしたウォーキングや、マタニティビクス、マタニティヨガ、スイミング、お風呂上がりのストレッチなどが挙げられます。
腹筋を使う動作や、激しい動きは避けてください。妊娠前に普段運動をしていなかった方は、1回につき15分程度から始め、徐々に運動量を増やせると良いでしょう。おなかが張りやすい方や、多胎、切迫早産や妊娠高血圧症候群などの合併症がある方は、運動を始める前に、必ず担当医に相談し、指導に従ってください。
便秘と痔
便秘
妊娠中は便秘になりやすく、もともと便秘ではない人も妊娠後に便秘になることはよくあります。妊娠中はプロゲステロンというホルモンが分泌され、腸の動きが抑えられるためです。この状況が出産まで続くこともありますが、出産後は少しずつ便秘が改善されます。
便秘の予防には、水分、食物繊維を多く含んだ食品(根菜など)やヨーグルトを積極的に摂ることと適度な運動が大切です。それでも便秘が改善されない場合は、妊婦健診で相談しましょう。必要に応じて下剤(酸化マグネシウムなど)が処方されます。
痔
妊娠や出産をきっかけに痔になることは少なくありません。便秘で便が硬くなり、排便時に息むことが多くなると、肛門周囲の血管がうっ血し、痔になります。外痔核や切れ痔は痛みや腫れを伴います。
痔の予防には、まず便秘を防ぐことが大切です。規則正しい生活や食事を心がけ、場合によっては下剤を使用して対処しましょう。痔の痛みや腫れが強い場合は妊婦健診で相談しましょう。必要に応じて痔の薬(軟膏)が処方されます。出産後、痔は徐々に軽快します。
頻尿と尿もれ
妊娠中は大きくなった子宮による膀胱の圧迫と、循環血液量の増加による尿量の増加の影響で、頻尿や尿もれになることがあります。妊娠中は夜間にトイレで目が覚めやすくなりますが、出産後は改善されます。
妊娠中の尿もれは珍しいことではなく、治療を要することはほとんどありません。注意が必要なことは、尿もれと破水の区別がつきにくいことです。尿もれと思っていたものが、数日後の診察で破水と判明することがあります。流れている感じが続くなど、気になる場合は医療機関に相談しましょう。
歯科健診と口腔ケア
つわりの時は、歯磨きが十分にできないことがあります。また、妊娠によって、唾液の分泌量や性状が変わり、口の中の環境が悪くなりがちです。悪い口内環境が続くと、歯周病や虫歯になるリスクが高まります。歯周病の妊婦さんは、早産や低出生体重児のリスクが高くなるという報告もありますので、赤ちゃんのためにも口腔ケアが大切です。
口腔ケアには、歯磨きなどのご自身でおこなうセルフケアと、口腔衛生指導・歯面清掃・歯石除去などの歯科医師、歯科衛生士による専門ケアがあります。市区町村によっては、妊娠中の歯科健診に補助が出る場合があります。
妊娠を理由に歯科受診や治療を控える必要はありません。レントゲン撮影、局所麻酔、内服薬が必要になる場合もありますので、妊娠中に歯科受診をする場合は、必ず妊娠していることを歯科医師に伝えましょう。
生まれたばかりの赤ちゃんの口の中は無菌ですが、両親の口の中の細菌が伝わることがあります。このため、家族の適切な口腔ケアはこどもの虫歯を予防できる可能性があります。このことから、出産後も口腔ケアを続けることをお勧めします。
妊娠中の肌の変化・ケア
妊娠線
妊娠に伴い、おなか、太もも、お尻、乳房に赤色〜紫色の線が出てくることがあります。これを妊娠線と言います。妊娠線は皮膚が急激に伸び、皮下の真皮が裂けることで起こります。妊娠中は肌の保湿を心がけましょう。出産後は色が薄くなり、少しずつ目立たなくなります。
妊娠性痒疹(にんしんせいようしん)
妊娠中はホルモンバランスの変化により、おなかや背中、手足に湿疹ができ、かゆみを伴うことがあります。これを妊娠性痒疹と言います。保湿を十分におこない、かゆみが強い場合は冷やしましょう。症状が強い場合は外用薬や飲み薬が処方されます。妊娠以外の他の原因で湿疹になっている場合もありますので、気になる場合や症状が続く場合は皮膚科や妊婦健診で相談しましょう。
おっぱいのケア
妊娠後期は、出産後の授乳に備えて、自身の乳房や乳頭の状態を知る大事なタイミングとなります。出産前にしっかり観察して、ケアをしていきましょう。
乳頭の形状にあわせたケア
乳頭が柔らかいと赤ちゃんが母乳を飲みやすいため、出産前から乳頭や乳輪をほぐしておくことをお勧めします。乳頭が陥没している場合には、乳頭を突出させるマッサージ方法もあります。乳頭への刺激は、おなかの張りを引き起こすことがあるため、自身に合った時期や方法については医療機関に相談し、指導を受けてからおこなってください。
乳頭のお手入れ
乳頭に垢がたまることもありますが、指の爪などでかき出すなどの強い刺激は避けてください。気になる場合は、入浴前に、オイル(オリーブオイルやベビーオイル)を付けたコットンを乳頭に置きラップをして、入浴中に5分程度温めてから外すと、汚れが取れやすくなります。
下着の工夫
妊娠時は、個人差もありますが、乳腺の発達により、妊娠前よりも乳房が大きくなります。からだの変化に合わせて、からだを締め付け過ぎないものを着用しましょう。
妊娠中と産後のこころの変化
マタニティブルーズ
産後に気持ちが一時的に不安定になることをマタニティブルーズと言います。ホルモンバランスの変化によって、涙もろくなったり、イライラしたり、気分が落ち込むなどの症状がでます。多くは一時的なもので、10日程度で症状が落ち着きます。できれば、このような時期があることを前もって家族に伝え、温かく受け入れてもらいましょう。マタニティブルーズが長引く場合は「産後うつ」に移行することがありますので、注意が必要です。症状が強い場合や長引く場合は、医師や助産師に相談しましょう。
このような心の不調は妊娠中からみられる人もいます。妊娠中はからだだけではなく、心にも気を配り、体調不良が続く場合は医療機関に相談しましょう。
産後うつ
マタニティブルーズは10日程度で落ち着きますが、産後うつ病の症状は2週間以上持続します。気分の落ち込み、楽しみの喪失、食欲不振や不眠などの症状が現れます。産後のホルモンバランスの急激な変化や育児ストレス、頻回の授乳による睡眠不足が重なると一気に悪化します。「自分は大丈夫」と思い込まず、お住まいの地域の子育て世代包括支援センターや医療機関に相談しましょう。
対処方法としては、産後ケア施設や家事・育児サービスを利用すること、十分な休養と栄養をとること、周りの人に話を聞いてもらうことがあげられます。時には、精神科・心療内科の受診が必要となります。家族、医療スタッフ、地域の保健師などとの連携も大切です。
妊娠中に気をつけたい
症状と病気
妊娠中は、日々からだの状態が変化し、さまざまな症状が現れることがあります。妊婦健診は定期的に受け、それ以外のタイミングでも、異変を感じた場合は担当医や助産師に相談しましょう。
気をつけたいサイン
つわり
つわりは妊娠初期に半数以上の妊婦さんにみられる一般的な症状です。ただし、食事がほとんど取れず、体重が減少するなどの場合は治療が必要になることもありますので医療機関に相談しましょう。
お腹の張り
お腹の張りは妊娠中によくみられる症状ですが、治療を必要とする切迫流産や切迫早産などが原因のことがあります。しばらく安静にして様子を見ましょう。症状が治まらない場合は、医療機関を受診してください。
性器出血
妊娠中の性器出血は、妊娠初期には比較的よくみられる症状ですが、切迫流産や切迫早産などの可能性があります。自己判断せず、受診の必要性を医療機関に相談しましょう。とくに妊娠後期の性器出血は常位胎盤早期剥離の可能性があるので、すぐに医療機関を受診しましょう。
破水感
バシャッと大量の羊水が流れ出ることもあれば、チョロチョロと漏れ出て、尿やおりものと区別が難しいこともあります。破水が疑われる場合はすぐに医療機関に連絡しましょう。
おりものの異常
おりものの量が多い、においや色が気になる、陰部がかゆい場合は、感染症にかかっている可能性がありますので医療機関を受診してください。
胎動が少ない
妊娠20週ごろから胎動を感じるようになります。妊婦健診で赤ちゃんの発育が順調と言われていて、時々胎動を感じていれば大丈夫である可能性が高いです。しかし、胎動が急に弱くなったと感じる場合は医療機関に相談しましょう。
気をつけたい状態や疾患
妊娠高血圧症候群
妊娠高血圧症候群は、妊娠中に高血圧を発症した状態です。お母さんと赤ちゃんの両方が危険な状態になることがありますので、妊婦健診での血圧測定や尿検査などを通じて、異常がないかを定期的に確認することが大切です。もし、妊娠高血圧症候群と診断された場合は将来の生活習慣病の発症にも注意が必要です。
妊娠糖尿病
お母さんが高血糖になることで、赤ちゃんの合併症(巨大児や肩甲難産、新生児の低血糖や黄疸など)が増加します。妊婦健診をきちんと受けて、血糖値を確認することが重要です。尿糖は妊娠中には出やすくなるので異常ではないことも多いですが、リスクが高いと判断された場合は妊娠糖尿病 の検査を行います。もし、妊娠糖尿病 と診断された場合は将来の糖尿病の発症に注意が必要です。
感染症
感染症にかからないよう、手洗いやうがいなど基本的な対策を行いましょう。インフルエンザや新型コロナウイルス感染症のワクチンは、妊娠中も接種することができます。
予防すべき感染症は他にも、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、梅毒、風疹ウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス-1型(HTLV-1)、性器クラミジア、B群溶血性レンサ球菌(GBS)などがあげられます。これらの感染の有無は妊婦健診で調べることができます。
また、トキソプラズマやサイトメガロウイルスも妊娠中に注意したい感染症です。標準的な妊婦健診の検査項目ではありませんが、これらの検査も希望すれば受けられる医療機関もありますので、気になる方は相談しましょう。
胎児発育不全
赤ちゃんの推定体重が、妊娠週数に応じた基準値よりも明らかに小さいことを胎児発育不全といいます。その後の方針を立てるためにも、定期的に妊婦健診を受けて赤ちゃんの発育をチェックすることが重要です。