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長野県の事例紹介

指針の運用開始に伴い、自治体から中核医療機関にNIPTの認証、連携の協議を打診
県内医療機関の協力を受けながら妊婦等を支援する体制を構築中

長野県の要請により、信州大学附属病院が基幹施設として認証

長野県には令和4(2022)年にNIPTの実施施設として認証された信州大学附属病院が基幹施設となり、令和6(2024)年3月現在、4つの連携施設があります。

平成23(2013)年に日本でNIPTが導入されて以降、県の担当部署では妊婦さんから「県内でNIPTを受検できる施設はないか」等の問い合わせを受けることがあり、適切なカウンセリングを受けた上でNIPTを受けることができる体制の必要性を感じていました。令和4(2022)年に「NIPT 等の出生前検査に関する情報提供及び施設(医療機関・検査分析機関)認証の指針」が策定、運用開始されたことを機に、長野県 健康福祉部から、周産期医療、小児医療の中核を担う信州大学附属病院にNIPTの認証取得や支援体制について協議を打診。医療機関としても適切な支援を実施していくために、NIPT実施施設として認証を受けることを決めました。また県でも、妊婦さん等への情報提供、および関係機関の連携による支援体制の構築について取組を開始しました。


長野県 健康福祉部で行った3つの取組

① 基幹施設や連携施設、市町村の母子保健窓口など関係機関の調整
② 妊婦さん等への情報提供
・各市町村の母子保健担当部署に「出生前検査認証制度等運営委員会」が作成したチラシ等について情報提供 ・既存の妊活・子育て相談窓口や、医療従事者との情報共有、連携の推進
③ 市町村支援
令和4(2022)年9月、基幹施設の協力を得て研修会を実施。NIPTや検査を取り巻く現状や、寄り添い支える医療の考え方を共有する内容で、県内77の市町村から、母子保健担当部署の保健師、保健福祉事務所の保健師および医療関係者など136名が出席


出生前検査のみならず妊婦さんの不安によりそいささえる
「YS外来」

信州大学附属病院では基幹施設認証に伴い、「不安のある妊婦さんのための専門外来(通称:よりそいささえる外来/YS外来)」を開設しました。YS外来が対応するのは出生前検査に関する相談だけではありません。NIPT受検を検討する背景には、妊婦の既往歴や精神的なもの、家族背景などさまざまな不安要因が隠れています。その根底にあるものに耳を傾けて“よりそい”、心配や不安を共有することでその後の妊娠出産を“ささえる”ための外来を、妊婦健診とは切り離して設けることにしました。

YS外来のカウンセリング当日のフロー

“生んだ先の不安”に悩んでいる人にとって、“生んだ先の楽しさや喜び”を感じてもらう機会は少ないものです。ともすれば「未知の恐ろしいこと」と感じられるお腹の赤ちゃんを、妊婦さんとパートナー二人の大切な赤ちゃんとして捉え、その未来を考えてもらう時間になることを目指しています。

YS外来受診者に実施した事後アンケートによると、外来開設から2023年の12月までに回答した101人の内、後半で回答した49人の中でカウンセリングの後にNIPTを受けた人は57%でした。いずれからも「カウンセリングを受ける機会があって良かった」という声が多く寄せられています。

またこの信州大学附属病院のメンバーは、県内で連携施設を希望する病院に赴き勉強会を開催しています。勉強会には医師だけでなく看護師、助産師も多く参加しています。YS外来においても事前の予約、プレカウンセリング、カウンセリング後に思いを聞く場面など、看護師や助産師が関わる部分は非常に大きく、彼らの協力なくしては成り立ちません。医療スタッフがより知識を深め、妊婦さんやご家族に向き合う面談技術を向上することが、周産期医療全体の質を高めていくために不可欠と考えています。

自治体は応援団に
関係機関と信頼関係を構築しながら連携を広げていく

これらの取組のきっかけは長野県から中核医療機関への働きかけではありましたが、その後は医療機関の熱意あるメンバーによって、医療体制の構築や他の医療機関への情報共有などが精力的に進められています。「必要としている人のもとに、適切に情報や支援を届けたい」という医療機関と行政の共通の思いを基盤に、信頼関係を醸成しながら連携体制をより強く、より広く構築していくことを目指しています。